「健康は人生の全てではないが、健康を失うと全てを失う」
Apple創業者のスティーブ・ジョブズによる言葉の真偽は定かではありませんが、この有名な言葉が示すように、私たちは皆、健康の重要性を頭では理解しています。しかし、その健康を静かに、そして確実に蝕んでいる日常の習慣に、どれほどの人が気づいているでしょうか。
今回の連載では、あなたが当たり前だと思っている身体の常識にメスを入れ、不調やパフォーマンス低下の根本原因を探る旅に出たいと思います。
その旅の始まりとして、まず現代社会の象徴ともいえる「スマートフォン」が、私たちの身体に何をもたらしているのか、その不都合な真実から見ていきましょう。
頭の重さは、ボーリングの球と同じ
私たちの頭の重さは、平均して約5〜6kgあります。
これは、スーパーで売られているお米の袋(5kg)や、ボウリングの球(12〜13ポンド)とほぼ同じ重さです。もしあなたがボウリングの球を片手で、しかも少し前に傾けて持ち続けなければならないとしたら…その負担は想像を絶するものでしょう。
本来、私たちの首の骨(頸椎)は、緩やかなカーブを描くことで、この重い頭を巧みに支えています。これは、古代ローマの水道橋にも使われた「アーチ構造」と同じ原理です。アーチが効率的に橋の重さを分散させるように、首のカーブは頭の重さを分散させ、首や肩の筋肉への負担を最小限に抑えるための、人体に備わった見事な設計なのです。
しかし、スマートフォンを覗き込むとき、私たちはこの理想的な設計を自ら放棄してしまいます。
角度が15度増す毎に、負荷は倍増していく
研究によれば、まっすぐ前を向いている状態から首を15度傾けるだけで、首にかかる負荷は12kgに倍増します。30度で18kg、そして多くの人がやりがちな60度の角度になると、その負荷はなんと27kgにまで達すると言われています。
27kgという重さは、小学校低学年の子どもに相当します。
つまり、多くの現代人は、**「常に子どもを首の上に乗せて生活している」**のと同じ状態なのです。
この「異常事態」が日常的に続くことで、首の骨の自然なカーブは失われ、まっすぐになってしまいます。これが、テレビや雑誌で頻繁に特集される「ストレートネック」や「スマホ首(テックネック)」の正体です。
問題は「痛み」ではなく「歪み」そのもの
「でも、それはただの肩こりでしょ?」
そう思った方もいるかもしれません。しかし、問題はもっと根深いところにあります。
首は、脳と身体の各器官を繋ぐ、いわば情報の超高速道路です。全身をコントロールする自律神経や、脳に酸素を送る重要な血管が密集する、まさに人体の最重要拠点なのです。
その拠点が構造的に「歪む」ということは、情報伝達に遅延やエラーが生じ、血流が阻害され、全身の機能に原因不明の不具合が生じるリスクを常に抱えていることを意味します。
マッサージで筋肉をほぐしても、すぐに症状がぶり返すのはなぜか?
それは、私たちがアプローチしているのが「結果」として生じている筋肉の緊張であり、「原因」である構造的な歪みそのものではないからです。蛇口から水が溢れているのに、床を拭いているだけのようなものなのです。
【まとめ】
今回の記事では、まずこの「スマホ首」が、単なる首や肩の問題ではなく、私たちの健康の土台そのものを揺るがす深刻な構造問題であるという事実を、あなたの脳に深く刻み込んでいただければと思います。
では、この構造的な歪みは、どうすれば根本から解消できるのでしょうか?
そのヒントは、私たちが思ってもみないような、身体の「土台」に隠されているのかもしれません。
次回は、もう一つの現代病「デスクワーク」が、なぜ私たちの身体を静かに蝕んでいくのか、そのメカニズムに迫ります。