なぜ、現代人は呼吸が浅くなったのか?
― 文明と引き換えに失った身体機能 ―
まずは、深呼吸をしてみてください。
胸や肩だけでなく、お腹や背中、身体全体が風船のように膨らむ感覚はありますか?
それとも、胸の上部だけが上下する、浅く短い呼吸になってしまってはいないでしょうか。
呼吸は、生きるうえで最も基本的な生命活動です。
私たちは意識せずとも、1日24時間365日、休むことなく呼吸を繰り返しています。
しかし、その「質」について意識している人は、決して多くありません。
文明は、私たちに快適で便利な暮らしをもたらしました。
しかしその代償として、「深く豊かな呼吸をする能力」を、私たちは静かに失いつつあるのかもしれません。
■ 呼吸の主役「横隔膜」が働けない
呼吸を主に担っているのは、「横隔膜」という筋肉です。
胸とお腹の間にあるドーム状のこの膜が、上下に動くことで肺の容量を変化させ、呼吸が行われます。
- 息を吸う → 横隔膜が収縮して下がる → 肺が膨らむ
- 息を吐く → 横隔膜が弛緩して上がる → 肺がしぼむ
ところが、猫背のような不良姿勢では、背中が丸まり、肋骨が閉じ、内臓が前方に押し出されて、横隔膜が上下に動くスペースが奪われてしまいます。
その結果、横隔膜が本来の働きを果たせず、身体は代わりに首・肩・胸の筋肉(呼吸補助筋)を総動員して、なんとか呼吸を維持しようとします。これが「胸式呼吸(浅い呼吸)」の正体です。
本来は非常時に使われるべき補助筋を、日常的に酷使することで、肩こり・首こり・呼吸の浅さという三重苦が生じてしまうのです。
■ Q&A:よくある疑問にお答えします
Q:呼吸が浅いと、なぜ疲れやすくなるの?
A:浅い呼吸では酸素の取り込み量が減少し、細胞がエネルギー不足になります。全身の代謝効率が落ち、疲労感やだるさにつながります。
Q:肩こりと呼吸って関係あるの?
A:あります。横隔膜が使えず胸や首の筋肉で呼吸する「胸式呼吸」が続くと、これらの筋肉が緊張し、慢性的な肩こり・首こりを引き起こします。
Q:深い呼吸って、どうすればできるの?
A:まずは姿勢から整えること。猫背や骨盤後傾を改善し、横隔膜がしっかり動ける構造を取り戻すことが第一歩です。
■ 酸素不足がもたらす静かな不調
呼吸が浅くなることで、体内に取り込める酸素の量が減少します。
酸素は、私たちが食事から得た栄養をエネルギーに変える際に不可欠な存在です。
その供給が滞るということは、全身の細胞がエネルギー不足に陥ることを意味します。
その結果、以下のような不調が現れます。
- 慢性的な疲労感・だるさ
- 集中力・思考力の低下
- 免疫力の低下(風邪をひきやすい)
- 気分の落ち込み・不安感(自律神経の乱れ)
- 冷え性・むくみ
これらの症状に心当たりはありませんか?
高価なサプリメントを飲む前に、まずは「酸素をきちんと取り込める身体」であるかどうかを見直すことが先決です。
【まとめ】
「呼吸が浅い」というのは、単なる癖や気分の問題ではありません。
それは、姿勢の崩れによって引き起こされた構造的なエラーなのです。
スマホ首、デスクワークによる腰痛、そして浅い呼吸。
これらはすべて、現代の生活様式が私たちの身体から“理想的な構造”を奪った結果であり、根本では一本の線でつながっています。
次回予告
ここまで、私たちは現代人が抱える身体の不調、その原因、そして改善法の限界について見てきました。
次回のVol.6からは、いよいよ本連載の核心へ。
「第2部:探求編」がスタートします。
まずはこの問いから始めましょう。
「人間はなぜ、立っていられるのか?」
重力下での身体の仕組みに、常識を覆す新しい視点から迫ります。